top of page

医療法人の「非営利性」とは?利益・役員報酬・MS法人との取引をわかりやすく解説

9月23日
読了時間: 8分

「医療法人は非営利法人である」と聞くと、「利益を出してはいけないのか?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれません。


しかし、医療法人に求められる「非営利性」とは、利益を追求してはいけないという意味ではありません。

医療法人を設立・運営するうえで重要なのは、利益そのものではなく、その利益をどのように取り扱うかという点です。


本コラムでは、医療法人の「非営利性」について、剰余金の配当、役員報酬、株式会社やMS法人との取引など、実務上注意したいポイントをわかりやすく解説します。



1.医療法人の「非営利性」とは?


医療法人は、株式会社などの営利法人とは異なり、「営利を目的としない法人」として位置づけられています。

医療法人制度は、医療事業の経営主体に法人格を取得する道を開くことで資金の集積を容易にするとともに、医療機関の経営に永続性を持たせ、地域医療の安定を図ることなどを目的として創設された制度です。


ここでいう「非営利」とは、「利益を出してはいけない」という意味ではありません。

医療法人も、診療による収入を得て、職員の給与や家賃、医療機器の購入費などの経費を支払い、結果として利益が生じることがあります。

重要なのは、その利益を株式会社の配当のように法人の構成員へ分配することが認められていないという点です。



2.医療法人は利益を出してもいい?


医療法人が利益を出すこと自体は禁止されていません。

医療法第54条では、

「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。」

と規定されています。


つまり、禁止されているのは「利益を出すこと」ではなく、「剰余金を配当すること」です。


医療法人の運営によって生じた利益は、例えば、

医療機器の購入・更新・診療所や病院の設備の整備・改善・職員の待遇改善・将来の事業運営に備えた内部留保

など、法人の運営や医療の充実のために活用していくことになります。

そのため、「非営利法人だから利益を出してはいけない」という理解は正確ではありません。



3.なぜ剰余金の配当が禁止されているのか


医療法人には、地域において継続的に医療を提供するという役割があります。

医療法人で生じた利益を出資者や社員などに自由に分配できるようにすると、医療によって得られた利益が法人の外部へ流出し、営利企業と同様の運営になってしまう可能性があります。

そのため、医療法では剰余金の配当を禁止することで、医療法人の非営利性を確保しています。


また、注意しなければならないのは、形式上「配当」という名称でなければ問題ない、というわけではないことです。

例えば、取引の実態に比べて著しく高額な費用を支払うなど、実質的に法人の利益を特定の者へ分配していると評価されるような行為についても、医療法人の非営利性との関係で問題となる可能性があります。

名称ではなく、取引の実態を踏まえて判断することが重要です。



4.理事長や理事に役員報酬を支払うことはできる?


「配当が禁止されているのであれば、理事長は医療法人から報酬を受け取れないのでは?」と思われるかもしれません。

しかし、剰余金の配当と役員報酬は別のものです。

理事長や理事が法人の運営や診療等に従事し、その職務の対価として適正な役員報酬を受け取ること自体が禁止されているわけではありません。


一方で、役員報酬という形式を取っていれば、どのような金額でも認められるというわけではありません。

例えば、法人の収益や役員の職務内容等に照らして著しく高額な報酬を設定し、実質的に法人の利益を役員へ分配しているような場合には、非営利性の観点から問題となる可能性があります。


したがって、役員報酬については、職務内容や法人の規模、経営状況などを踏まえ、合理的に説明できる金額を設定することが重要です。



5.株式会社やMS法人との取引はできる?


医療法人を経営する際、「MS法人」という言葉を聞くことがあります。

MS法人(メディカルサービス法人)とは、一般的に、医療法人や医療機関に対して、医療そのものではない各種サービスを提供する法人を指して使われる名称です。

法律上「MS法人」という特別な法人形態が存在するわけではなく、株式会社や合同会社などの形態が利用されています。


例えば、

医療機器等の賃貸・リース・不動産の賃貸・経理や事務等の業務委託・物品の販売

などを行うケースがあります。


医療法人が株式会社やMS法人と取引すること自体が一律に禁止されているわけではありません。

ただし、医療法人と取引先の法人との間に人的・資本的な関係がある場合などには、特に注意が必要です。

例えば、医療法人の理事長やその親族が経営する会社に対して、市場価格と比べて著しく高額な賃料やリース料、業務委託料などを支払い、医療法人の利益を外部へ移転していると評価されるような取引は、医療法人の非営利性との関係で問題となる可能性があります。


そのため、関係会社との取引では、

その取引が本当に必要なのか、取引価格は適正か、第三者との取引と比較して合理的な条件になっているか、契約内容や価格の根拠を説明できるか

といった点を整理しておくことが重要です。


相見積もりを取得したり、市場価格を確認したりするなど、取引条件の合理性を客観的に説明できる資料を残しておくことも有効です。



6.医療法人と営利法人の役員は兼務できる?


株式会社などの営利法人の役職員であることだけを理由として、当然に医療法人の役員になれないわけではありません。

ただし、その営利法人が医療法人と取引関係にあるなど、医療法人の開設・経営上の利害関係を有する場合には注意が必要です。


厚生労働省の通知では、医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員が医療法人の役員を兼務することについて、医療法人の非営利性や運営への影響という観点から一定の制約が示されています。


そのため、「株式会社の役員だから医療法人の役員にはなれない」「兼務はすべて問題ない」と一律に判断するのではなく、営利法人と医療法人との取引関係、役員構成、意思決定への影響などを具体的に確認する必要があります。


特に、医療法人とMS法人等との間で継続的な取引を予定している場合には、法人設立の段階から役員構成について慎重に検討することが重要です。



7.「実質的な利益の分配」に注意


医療法人の非営利性を考える際には、「配当をしていなければ大丈夫」と考えないことが重要です。


例えば、次のようなケースでは注意が必要です。

・職務内容等に比べて著しく高額な役員報酬を支払う

・関係者が所有する不動産を相場より著しく高額な賃料で借りる

・関係会社から医療機器等を不当に高い価格で賃借する

・実態に見合わない高額な業務委託料を関係会社へ支払う

・合理的な理由なく特定の関係者へ法人の利益を移転する


これらは、形式上は「配当」ではなくても、取引の内容によっては実質的な利益の分配と評価される可能性があります。

医療法人と関係者・関係会社との取引では、「契約書を作っているから問題ない」ということではなく、その取引自体に合理性があり、対価が適正であることが重要です。



8.医療法人を設立する前から「非営利性」を意識することが重要


医療法人の非営利性は、法人設立後だけの問題ではありません。

医療法人設立を検討する段階から、

・誰を社員・役員とするのか

・法人の資産をどのように準備するのか

・個人や関係会社が所有する不動産

・医療機器をどう扱うのか

・株式会社やMS法人とどのような取引を行うのか

・役員報酬をどのように設定するのか

などを整理しておく必要があります。


特に、医療法人と関係会社との間で不動産賃貸、医療機器のリース、業務委託などを予定している場合には、設立後に考えるのではなく、医療法人化のスキームを検討する段階から取引関係を整理しておくことが大切です。



まとめ


医療法人の「非営利性」とは、「利益を出してはいけない」という意味ではありません。

医療法人も適正な事業運営によって利益を上げることはできますが、その利益を社員などへ配当することは禁止されています。


また、形式上は配当ではなくても、過大な役員報酬や関係会社への不当に高額な支払いなど、実質的に利益を外部へ移転するような取引については注意が必要です。


特に、株式会社やMS法人との取引、役員の兼務、不動産や医療機器の賃貸・リースなどがある場合には、医療法人の非営利性との関係を踏まえて、法人設立前から全体のスキームを整理しておくことが重要です。


当事務所では、医療法人設立認可申請をはじめ、医療法人化に伴う行政手続きや、設立に向けた事前の整理・行政への確認などをサポートしております。

医療法人化をご検討中で、「現在の事業スキームで医療法人化を進められるのか」「関係会社との取引があるが、どのように整理すればよいのか」など、ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。


※本コラムは、2026年9月時点で公表されている法令・厚生労働省の通知等をもとに、医療法人制度の一般的な考え方をご紹介するものです。

個別の取引に関する税務・法務上の判断については、取引内容等に応じて税理士・弁護士等の専門家への確認が必要となる場合があります。



行政書士岡瑛美事務所 岡 瑛美

医療分野に特化した行政書士として、開設から運営まで一貫してサポートします。


「まだ検討段階」という方のご相談も歓迎しています。


コメント


bottom of page