個人開設と医療法人開設、どちらを選ぶべき?――メリット・デメリットを徹底比較
- 瑛美 岡
- 5月1日
- 読了時間: 5分
はじめに
診療所の開設を検討するとき、必ず直面するのが「個人で開設するか、医療法人を設立して開設するか」という選択です。
前回の記事では診療所開設の全体的な流れをご紹介しましたが、この「開設形態の選択」は、税務・資金調達・後継・スタッフ採用まで、開業後の経営全体に大きく影響する重要な判断です。
この記事では、個人開設と医療法人開設それぞれのメリット・デメリットを整理し、「どちらが自分に合っているか」を考える際の参考にしていただける内容をお届けします。
そもそも「個人開設」「医療法人開設」とは?
まず、2つの形態の基本的な違いを確認しておきましょう。
【個人開設】 医師個人が開設者・管理者となって診療所を運営する形態です。
開設にあたっては、保健所への「開設届」を提出するだけでよく、手続きが比較的シンプルです。
【医療法人開設】 都道府県知事の認可を受けた医療法人が診療所を開設する形態です。
法人設立には都道府県への申請・認可が必要で、設立までに数ヶ月〜半年以上かかることもあります。
「医療法人を作ってから診療所を開設する」のか、「まず個人で開設してから後日法人化するのか」という順序の問題もあり、将来の計画も含めて検討することが重要です。
個人開設 vs 医療法人開設 比較一覧
主なポイントを表にまとめました。
比較項目 | 個人開設 | 医療法人開設 |
開設手続き | 保健所への届出のみ(比較的シンプル) | 都道府県知事の許可申請が必要 (数ヶ月〜半年以上) |
費用・コスト | 登記費用など不要。初期コストが低い | 法人設立費用・登記費用などが発生 |
税務 | 所得税(累進課税)。 収入が増えると税負担が重くなりやすい | 法人税。一定の収入を超えると節税効果が出やすい |
役員報酬 | 該当なし | 院長を役員として報酬設定が可能。 経費として計上できる |
退職金 | 個人では退職金制度なし | 法人から役員退職金を支給でき、節税効果が高い |
資金調達 | 個人名義での借入。 審査は個人の信用力による | 法人名義での借入も可能。 融資の幅が広がる場合がある |
後継・承継 | 廃院して後継者が新たに開設するケースが多い | 理事長交代・持分譲渡により承継しやすい |
分院展開 | 個人では分院の開設に制限あり | 法人であれば複数の診療所を運営しやすい |
事務・経理 | 比較的シンプル | 決算・登記変更・社員総会など法人特有の事務が増える |
社会的信用 | ― | 法人格により取引先・金融機関からの信用が高まる場合がある |
個人開設のメリット・デメリット
メリット
手続きが少なく、スピーディーに開業できる
設立コストがかからない
法人特有の事務負担(登記変更・決算申告など)がない
小規模・1院経営であれば管理しやすい
デメリット
収入が増えると所得税の累進課税で税負担が重くなる
退職金の積み立てが難しく、老後の資産形成の選択肢が限られる
後継者への承継が法人に比べて複雑になりやすい
分院展開や事業拡大には制約がある
個人開設は「まず開業して、軌道に乗ったら法人化する」という流れも一般的です。
将来の法人化を見据えて、最初から設計しておくことをおすすめします。
医療法人開設のメリット・デメリット
メリット
一定の利益水準を超えると、法人税の適用で節税効果が生まれやすい
役員報酬や退職金を活用した柔軟な税務対策が可能
法人名義での資金調達・融資が受けやすくなる場合がある
分院展開・事業拡大がしやすい
後継者への承継(理事長交代など)がスムーズに行いやすい
デメリット
設立・認可に時間とコストがかかる(申請から認可まで数ヶ月以上)
毎年の決算・登記変更・社員総会など、法人特有の事務負担が増える
顧問税理士・社会保険労務士など専門家費用が発生しやすい
剰余金の配当ができない(医療法上の制限)
医療法人化のメリットが出やすいのは、一般的に年収(個人所得)が1,500〜2,000万円を超えてくるあたりが目安と言われています。
ただしケースバイケースですので、税理士にシミュレーションを依頼することをおすすめします。
どちらを選べばよい?
一概に「どちらが正解」とは言えませんが、下記のような観点で検討してみてください。
▶ 個人開設が向いているケース
まずは1院でシンプルに開業したい
開業資金や初期コストを抑えたい
将来的な法人化も視野に入れつつ、まず実績を積みたい
▶ 医療法人での開設が向いているケース
すでに一定の収入があり、節税対策を本格的に考えたい
分院展開や事業拡大を計画している
後継者(子息・パートナーなど)への承継を見据えている
社会的信用や組織基盤を整えたい
手続き面での違い:個人は「届出」、法人は「許可申請」
個人開設の場合、診療所の開設は保健所への「開設届」の提出で完了します(医療法に基づき、開設後10日以内)。
一方、医療法人が診療所を開設する場合は、まず医療法人そのものを設立するために都道府県知事への許可申請が必要です。この申請受付は年1〜2回と窓口が限られており、申請から認可・登記完了まで半年以上かかることも珍しくありません。
医療法人の設立手続きについては、別記事で詳しく解説しています。
まとめ
個人開設と医療法人開設の選択は、現在の収入水準・将来の事業規模・承継の有無など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。
「どちらが得か」という税務的な観点だけでなく、「将来どのようなクリニックを作りたいか」という経営ビジョンとあわせて検討することが大切です。
「自分の場合はどちらが向いているか相談したい」「将来の法人化を見据えた設計をしたい」という先生方は、お気軽にご相談ください。
制度は改正されることがあります。最新情報については、当事務所にご確認ください。
行政書士岡瑛美事務所 岡 瑛美
医療分野に特化した行政書士として、開設から運営まで一貫してサポートします。
「まだ検討段階」という方のご相談も歓迎しています。




コメント