開業前に確認すべき法令・規制の基礎知識――クリニック経営に関わる主な法律を整理する
- 瑛美 岡
- 5月3日
- 読了時間: 6分
はじめに
クリニックを開業・運営するにあたって、医師としての専門知識だけでなく、医療に関する法令・規制の基礎知識も欠かせません。
「知らなかった」では済まない法令違反が、行政指導・診療報酬の返還・最悪の場合は保険医療機関の指定取り消しにつながることもあります。
この記事では、クリニック開業前に押さえておきたい主な法令・規制を分野別に整理します。
専門的な内容については各専門家に相談することを前提に、まず全体像を把握していただくことを目的としています。
医療法――クリニック運営の基本となる法律
医療法は、医療機関の開設・管理・構造設備などについて定めた、クリニック運営の根幹となる法律です。
開設・管理に関する主なルール
診療所の開設には保健所への届出(個人)または都道府県知事の許可(医療法人)が必要
診療所には管理者(原則として医師)を置かなければならない
管理者は原則としてその診療所に常勤しなければならない
構造設備基準(診察室の面積・待合室・手洗い設備等)を満たす必要がある
医療広告に関するルール
医療法および医療広告ガイドラインにより、クリニックが行える広告には制限があります。
詳細は別記事でご説明いたします。
医療法人に関するルール
医療法人の設立・運営・解散については医療法に詳細な規定があります。
剰余金の配当禁止・毎年の事業報告書提出義務などが代表的です。
医師法――医師としての義務と責任
医師法は、医師の資格・義務・罰則などを定めた法律です。
開業医として特に意識すべき点を挙げます。
応召義務
医師は正当な理由がなければ診察を拒んではならないとされています(医師法第19条)。
ただし時間外・専門外・感染リスクがある場合など、正当な理由として認められるケースについては厚生労働省の通知で整理されています。
診療録(カルテ)の記載・保存義務
診療録は診療のつど遅滞なく記載し、5年間保存しなければなりません。
電子カルテの場合も同様です。
処方箋の交付義務
患者に薬剤を投与する場合、原則として処方箋を交付しなければなりません。
処方箋には法定記載事項があります。
死亡診断書・死体検案書
医師は死亡を確認した場合、死亡診断書または死体検案書を作成する義務があります。
健康保険法・療養担当規則――保険診療のルール
保険診療を行うクリニックは、健康保険法および保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則)に従って診療を行う義務があります。
療養担当規則の主なルール
診療は必要かつ適切なものでなければならない(過剰診療の禁止)
患者に対して特定の保険薬局への誘導をしてはならない
診療報酬の請求は実際に行った診療に基づいて行わなければならない
領収証・明細書を患者に交付しなければならない
不正請求・過剰請求のリスク
診療報酬の不正請求・過剰請求は、返還請求・保険医療機関の指定取り消し・保険医の登録取り消しといった重大な処分につながります。
レセプト(診療報酬明細書)の作成・請求には細心の注意が必要です。
薬機法(医薬品医療機器等法)――医薬品・医療機器に関するルール
医薬品・医療機器の製造・販売・使用に関して定めた法律です。
クリニック運営において特に関係する点を挙げます。
医薬品の管理
院内で使用・保管する医薬品は適切に管理する必要があります。
特に向精神薬・毒薬・劇薬は、保管方法・記録管理について厳格なルールがあります。
医療機器の管理
特定の医療機器は定期的な保守点検が義務付けられています。点検記録の保管も必要です。
未承認医薬品・医療機器の使用
未承認の医薬品・医療機器の使用は原則として禁止されています。
自由診療であっても、薬機法上の承認を得ていないものの使用には注意が必要です。
麻薬及び向精神薬取締法――麻薬・向精神薬の取り扱い
麻薬を診療に使用する場合、医師個人が都道府県知事から麻薬施用者免許を取得する必要があります。
麻薬施用者として守るべき主なルール
麻薬は施錠できる堅固な設備に保管しなければならない
麻薬の譲渡・譲受には厳格なルールがある
麻薬帳簿を備え、使用記録を記載・保存しなければならない
麻薬施用者免許は毎年更新が必要
向精神薬(睡眠薬・抗不安薬など)は麻薬とは異なり免許は不要ですが、保管・管理・廃棄に関するルールがあります。
個人情報保護法――患者情報の取り扱い
クリニックは患者の診療情報という極めて機密性の高い個人情報を扱います。
個人情報保護法および厚生労働省のガイドラインに従った適切な管理が求められます。
クリニックとして特に注意すべき点
個人情報の利用目的を患者に明示する(院内掲示・書面での説明)
第三者への情報提供には原則として本人の同意が必要
患者から個人情報の開示・訂正を求められた場合は適切に対応する
情報漏洩が発生した場合は報告・対応義務がある
電子カルテ・クラウドシステムの利用
電子カルテやクラウドシステムを利用する場合、データの管理・セキュリティ対策について、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に従った対応が求められます。
労働関係法令――スタッフ雇用に関するルール
スタッフを雇用するクリニックは、労働基準法・労働安全衛生法・育児介護休業法などの労働関係法令を遵守する義務があります。
特に注意が必要な点
労働条件の明示(雇用契約書・労働条件通知書の交付)
就業規則の作成・届出(常時10人以上のスタッフを雇用する場合)
時間外労働の上限規制(医師の時間外労働規制は2024年4月から適用)
有給休暇の付与・管理
社会保険・労働保険への加入
労務管理は専門性が高く、トラブルが発生すると経営への影響も大きいため、社会保険労務士への相談をおすすめします。
建築基準法・消防法――建物・設備に関するルール
建築基準法
診療所として使用する建物は、建築基準法上の「病院・診療所」用途として扱われます。
既存の建物を転用する場合は用途変更が必要になるケースがあります(延床面積200㎡超の場合は確認申請が必要)。
消防法
クリニックには消防法に基づく消防設備(火災報知器・消火器・誘導灯など)の設置義務があります。
建物の規模・用途によって必要な設備が異なりますので、消防署への事前確認をおすすめします。
まとめ:法令の全体像を把握したうえで専門家と連携する
クリニック運営に関わる法令は多岐にわたり、それぞれに専門性があります。
すべてを院長先生一人で把握・対応することは現実的ではありません。
大切なのは法令の全体像を把握したうえで、各分野の専門家と連携することです。
行政手続き・届出関係 → 行政書士
税務・資金計画 → 税理士
労務管理 → 社会保険労務士
法的トラブル → 弁護士
「開業前にどんな法令を押さえておけばよいか整理したい」「手続きや届出について相談したい」という先生方は、お気軽にご相談ください。必要な専門家のご紹介も含めて、開業準備をサポートいたします。
制度は改正されることがあります。最新情報については、当事務所にご確認ください。
行政書士岡瑛美事務所 岡 瑛美
医療分野に特化した行政書士として、開設から運営まで一貫してサポートします。
「まだ検討段階」という方のご相談も歓迎しています。




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